ハオルチアの洞

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映画感想 #3 『ヘレディタリー/継承』

4月も終わりですね。植物の記事は次回を予定しています。

今回は『ヘレディタリー/継承』。

2018年公開のアメリカ映画。ジャンルはホラー。

当ブログでは初の全く観ない方もいるジャンル。自分は怖さを感じないわけではないのですが大丈夫な方ですね。

  

 

早速感想でもいいのですがこのジャンルについては多少前置きをする必要があると思っていますのでコラムにお付き合いください。

 

ホラーは特殊なジャンル

映画漫画アニメといった娯楽は、楽しむために消費される文化ですから、受け手を恐怖させるものは矛盾していると言えます。必要がないもの、優先されるべきでないものとも言えるでしょう。ホラーが苦手な方も大いに賛同できる話かと思われます。しかし世の中にはホラーを見るのが楽しいと感じている人もいますね。

どういうことかと言うと、映画に限らず芸術やエンターテイメントというのは必ずしもポジティブなものである必要がないのです。要は自分の感情が動かされればいいので、恐怖によってでもいいわけです。*1

 

では先ほどの矛盾は解消されたかというと、恐怖は人間にとって本能的な防衛反応が基にある感情ですから、いくら情動が起こればいいと言ってもマイナスなものを進んで取り込む必要はありません。説話、教訓的な意味だとか、生きている実感を得られるからだとか、退屈しのぎだとか正当化する様々な理屈もあります。本人が怖がっていなくとも関係ありません。ホラーがホラーとしてある限り、矛盾を抱えることこそが条件である特殊なジャンルであると言ってもいいでしょう。

 

更にこの「怖いもの見たさ」で終わらない特殊性があります。それは歴史です。ゾンビ映画が分かりやすいでしょう。走る、走らないだとか、現象の原因、理由はなんだとか、別の要素を取り入れているだとか、怖くないB級から本気のものまでホラーというジャンルは必ず歴史を持ち歴史になり歴史を作るという力を持っています。もちろん他のジャンルでもこうした要素はありますが、先行作品の影響、他ジャンル作品の影響、演出手法や撮影技術、物語、構成、音楽あらゆる部分で縦・横軸に共通認識、コンセンサス、いわば巨大なコンテンツツリーを持ち、作り手、受け手共に解説、考察、解釈の際当然のようにそういった要素が語られるというジャンルは映画では他にないと思われます。(ミステリーはホラーを包含しあう近似ジャンルであり、推理小説を原作とするものも多く、映画というより小説としてこの特殊性を持つと考えたために除外。サスペンスも同様。)端的に言えば自身を含む母体と同様・同規模の体系をサブジャンルでありながら持ち*2、かつハイコンテクスト化しているという特殊性があると考えられます。

 

ホラー映画の面白さの理解の足しになれば幸いです。かつ本編の前提となる話でした。

ちなみに自分は特別好きでも詳しいわけでもないので具体的な話ができるわけではありません

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まずは予告動画貼っておきます。一応再生注意です。

 

youtu.be

 

Wikipediaによると本作は”「直近50年のホラー映画の中の最高傑作」「21世紀最高のホラー映画」と評されている。”*3とのことで海外では絶賛されているようです。アマゾンレビューでは現在☆3.6/5とまずまずといったところ。

 

貼った動画にもありますがストーリーをざっくりまとめると、お婆ちゃん、その娘夫婦、その子供である兄妹という一家のお婆ちゃんが亡くなった事がきっかけで、家族の周りでおかしな出来事や事件が起こり元々歪だった家庭が完全に崩壊していき不和であった理由、真相が判明する、という感じ。

ホラーに家族問題を合わせるとか割と珍しいしエグくなりそうで面白そうじゃない、と思ったのですが・・・

 

 

以下ネタバレ注意。

 

 

怖い・・・のか?

本作の感想になぜホラー映画というジャンルの前置きを書いたのか。実はホラーの様々で独創的なタイプを含んでいる特殊性には欠点があります。本作はその一つである受け手の文化的背景の違いによる恐怖の偏りが起きているのです。日本語の公式サイト*4では「完全解析ページ」としてわざわざ一度観た人を対象に詳細な解説をするページが用意されているほどです。

 

タイトルや予告動画にもある私が触れなかった部分、「継承」「受け継ぐ」というキーワード。何かもう一つ重要な要素があることはお判りでしょう。ずばり本作は悪魔召喚系のホラーでもあるのです。キリスト教圏を主とした悪魔という概念に馴染みの深い国の方や日本でもそういった宗教の方、ちょっとでも暗い、なにか聞こえる、音楽が不穏というだけでもとにかく恐怖を感じる方なら十分作り手の思惑通りに恐怖を堪能できると思います。しかし我々は悪魔という存在に馴染みがありませんし、直接的ではないじめっとした描写はJホラーの十八番なので多少なり経験があるはずです。

悪魔崇拝に他の要素を取り入れることでより恐怖を煽るつもりが、日本人にとっては悪魔描写が薄れた上にテーマがとっ散らかった様にしか見えなかったのかなと思いました。実際好意的でないレビューの多くに終盤のカルト描写を滑稽なものに感じたといった内容が見られました。もちろん『エクソシスト』など私でも知ってるレベルの超名作ホラーなら悪魔召喚系でも仏教神道系日本人にも恐ろしく感じられるものもあります。それはその一点において突き抜けているからでしょう。

 

そう感じるのは我々に悪魔知識が足りないからだけではないように思えます。

実際に犠牲者が出る一方、家庭内でのもめ事や母親が幻覚を見る描写や夢遊病を患っていたという話によって、途中までは本当に”何か”が起きているという宗教的な話なのか、精神汚染、狂気をテーマにしたいのかはっきりさせないようにしています。これはいい細工でもありますが、この他にも丁寧な前振りをした割に、結局悪魔がわるいんだ!悪魔とその信者が真に召喚される前なのにすげーがんばってた!あくまこうりんせいこう!おわり!というふわっとした安直な着地を目指すことになります。これでは視聴者がどういう目線に立って物語を理解していいのか悪い意味でも混乱することになります。特に日本人は思うわけです。「え、召喚が目的で、召喚もされてないし男じゃないと憑けないって話なのに女に憑りついてたし霊障起こしまくって暴れてたって事?しかも信者は思うがまま人を呪える?どういう理屈?」と。

 

何故悪い目に遭うのかという点も弱いです。因果の部分は物語の基礎として重要ですよね。何かに怒っているとか、恨みがあるとか、何をしたいか等。しかし元凶はとにかく悪魔崇拝者だからという所で終わってしまいます。本当はドラマがないのに終盤近くまで家族で揉めるシーンが続く。これでは一貫性に欠けます。ペットの犬もいつのまにか雑に死んじゃう。ジョンウィックおじさんもおこです。

 

評価できる点もあります。音楽は雰囲気を作れていたし、母親役の女優の恐怖する顔、怒号は真に迫る演技でした。娘役の表情も良かったです。じっくり時間を使ったカットも、退屈にならずに緊張感を感じさせるようになっていました。

 

まとめると充分に基本は抑えられていて音楽や好演に支えらているし、特殊効果も違和感がほぼないのでいい作品ではありますが、過大な評判に期待するのはやめた方がいいといったところでしょうか。

 

ではまた。

 

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*1:どうしてもホラーを受け付けない方でも悲劇的な話や歌が好きだったり魅力的に感じるのと同じ理屈と言えば理解できるでしょう。

*2:映画で言うと「娯楽」や「芸術」の一つといった見方をすればこうした構造はいくらでも見れてしまうが単体として十分成立する規模とさせてください

*3:Wikipedia参照:ヘレディタリー/継承 - Wikipedia

*4:参照:映画『へレディタリー/継承』公式サイト