ハオルチアの洞

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アニメ感想 #8 『リコリス・リコイル』(2022)

今年も終わりに近づいてきました。

 

今回は今年放送されたばかりの作品です。

当ブログで新作の感想は初めてとなりますね。

 

youtu.be

※貼ったPVは2弾のもので作品のメイン分、1弾の方は日常回分ですので気になったらそちらも見ていただくといいかと思います。3弾は前半を視聴している人向けです。

 

女子高生が秘密対テロ組織!?

舞台は現代日本。日本が安全な理由は明治以前より続く秘密組織が現代でもDA*1と名前を変え社会の監視と治安維持しているからだった!

政府には協力するが警察等からは独立し、凶悪な犯罪やテロを未然に防ぐために銃殺が基本の超法規的権限を持つDA。今日も国民の平和と安全を守るため暗躍しているのであった。

 

そんなDAに所属する少女、井ノ上たきなは任務中仲間を守るために命令違反をし、本部とは別支部へと左遷される。当初は手柄を立てすぐにでも本部へ戻りたがっていたがそこで同じDAの少女に出会うことで…というのが始まりです。

 

このDAというのが孤児を集めて訓練し、少年少女のうちから殺しが前提の任務に就かせるまぁまぁなブラック組織なんです。犯罪に対応するため普段から街中に待機し、都会に溶け込むために制服を着る。ちなみに暗殺が得意な少女たちはリコリス。少年たちの方は特殊部隊寄りな感じでリリベル呼ばれます。

DAの司令が親代わりで、洗脳に近い忠誠心があり、DA上層側も承知で利用しているところが闇が深いですね。

 

百合だと思うのは自由だけどいうほどか?

いつ死ぬとも分からない最前線から左遷させられた先は、犯罪もテロも関係ない市民の小さな依頼をこなし、非殺傷弾しか使わない”変わり者”のリコリス錦木千束(にしきぎちさと)だけが所属する支部でした。表向きは喫茶店を営んでいます。

あまりにも空気感が違う世界に戸惑うたきな。更に千束はリコリスの中でも特に優秀で有名なのに、リコリスの存在意義からは外れた活動しかしていない様子を見て落胆します。しかし段々とデレて考えが変わってきます。お決まりの流れですね。

 

自分がSNS上やネット上で見た限り百合を感じた人が少なからずいるみたいです。物語としてはボーイミーツガールに近いですが、物語を動かす動機になれば恋愛でなく友愛でもいいですし、劇中でもいわゆる水着回や”らしい”描写もないので友愛として見るほうが素直だと思います。

 

 

以下ネタバレ注意

 

アラン機関の怪しさ

たきなの新しい生活や人間関係が落ち着いてきたのもつかの間、テロリストの真島率いる武装集団が日本を襲います。市民を相手に活動していた喫茶店支部も大規模なテロ活動、因縁によって巻き込まれていきます。ワンクールということもあってか物語は早々に千束、たきな、DA対真島らの組織という描写がほとんどを占めます。

 

ここでもう一つの設定に触れねばなりません。アラン機関という謎の組織です。アラン機関は何かしらの才能を持って生まれたのに、金銭面や環境によってその才能を発揮できない子供を支援して世に送り出しています。劇中では世界中でスポーツや科学分野等で支援を受けた子供(アランチルドレン)が活躍しニュースになっていました。

千束と真島はともにアランチルドレンで、アラン機関にとっては二人とも生来の才能をふるわせるために援助をしたという事になります。

 

千束は反射神経や観察力に優れていましたが心臓が悪く、アラン機関の一員の吉松という男に一般使用されているものより何世代も先の人工心臓をもらいました。DAの訓練で圧倒的な成績を残す千束を見て、機関の認めた才能は「殺人能力」でした。(真島は聴覚が非常に優れているが視力が悪かった。)

 

アラン機関は非常に極端な考え方をイデオロギーとしているようです。「才能を発揮することが人類や世界に対して貢献となる。それがその人にとっての幸せ」と言い切るのはなかなか振り切ってると言わざるを得ません。

 

当然のことですが「何をするべきか」は運命や他人が決めることではないからです。

 

本作のテーマは何なのか

千束に心臓移植する条件としてアラン機関が出したのは、その殺しの才能を伸ばし、使うことだったのですが、喫茶店支部の指揮官(ミカ)が生き方は千束自信に選ばせたいという思いから隠していました。当然ミカを責める吉松、しかし相いれず吉松は千束の心臓を半壊させ余命幾許と追い込みます

 

同じくアラン機関に助けられた敵が奔放に暴れまわり、才能や使命について自分勝手な講釈をたれる。命を救おうと思うきっかけになったアラン機関は殺しを求めて命を助けたという真実を知り、殺しに才能を発揮すれば新しい心臓を与えられるという条件を突き付けられる。

人を殺すだけの生き方を変えたはずだったたきなは、千束を生かすために吉松の持つ新しい心臓を彼を殺してでも奪おうとする。そして迫る余命。

命を大事にDAの”通常業務”を避けていた千束にとっては大変な状況になります。もう滅茶苦茶だよ

 

こうした状況で千束がもう一度命の使い方を見つめ直し選択する。たきなが新しい命の使い方を見つけたという変化。その心の動きが丹念に描かれる。最終盤での千束の選択やラスト、公式サイトトップのコピーにも「ふたりの時間、選びとる未来。」とあるように本作のテーマは間違いなく「生き方を問う」ことと言って良いでしょう。*2

 

〇完成度の高さは疑いようがない

テーマに関するドラマ、人間描写は丁寧にされて素晴らしいです。それを支える作画は特に良好で引きの絵で小さくなる時でさえとにかく作画が乱れたり線が緩くなった記憶がありません。見どころのガンアクションはいい迫力だし、普段の場面でもよく動く。キャラデザもいいので最初から最後までずっと千束とたきなはカッコイイし可愛い。CGとの合成も違和感がなく劇場版を除けばアニメーションとしての出来はトップレベルと言っていいでしょう。OPEDの曲も作品に合っていたしラストでの使われ方も効果的で良かったです。予告動画や公式サイトの仕掛け、SNSに使い方も効果的で最近少ないオリジナル作品としてかなりの気合の入りようが伺えます。

 

×やりたいことありきでガバになるのはありがちなつまずき

一方で後半につれて引っかかる点も目立ったように思えます。人間の使命、運命、才能というパーツを登場させるために用意したアラン機関がそのテーマの難しさを消化しきれずやらかしてます。

 

致命的なのは機関が主張する「殺人の才能」など存在しえない点です。千束が持つのはあくまで優れた洞察力や反射神経、運動能力であって、百歩譲って才能を発揮することが人類への貢献、当人の幸せだとしても殺しである必要が全くないです。これは劇中でも真島が優れた聴覚を有しながらもテロ活動をしていることと、劇中のニュースで同じく運動系の才能でスポーツ分野で活躍している人間がいるという事がわかることからも自明の失敗です。*3

 

アラン機関は一体何を基準に個々人の才能を生かす分野を決めているのか、どんな方法で世界中で片鱗すら見せずにくすぶっている才能を見つけられるのかといった点も説明をするには無理がありそうです。

 

また殺人の強要は吉松個人の暴走だったとしても、才能の発揮は機関の目標であるはずです。ではなぜ千束に提供されたアランチルドレンが開発した新型の人工心臓は世界へ発表されなかったのでしょうか?もしされていたら吉松が殺人を条件にさらに次世代の心臓を渡すという流れを作れなくなるからでしょう。ストーリー上都合が悪かったとしか思えません。

千束を見るリリベルの描写、逃げた真島、街に残された銃等は明らかに続編の足掛かりですが、機関の設定崩壊は次の12話でも修復することはほぼ不可能でしょう。舞台装置として都合よく利用した結果つじつまが合わなくなったので、元凶の部分だけど放置、では登場人物達の選択という根幹、物語の根拠がなくなってしまいます。

 

吉松については一番の見せ場、「狂わされたな お前も あの子に」とかかっこよくのたまうシーン。正直共感はできませんでした。千束の純粋さに吉松は機関のルールを破り、ミカはDA指揮官としての立場を超えた私情を持ち込むことになった点について言っているのか。その善意が悲劇的な結末になった事を皮肉的、自虐的に言ってるのか。いずれにしてもアラン機関の主義は決定論的ですからしみじみと言う必要はありません。

好意的に解釈するとつまりアラン機関のイデオロギーは正しくないことを吉松は最後の最後で悟ったのかもしれません。だとするといいシーンです。脚本の人そこまで考えてないと思うよ*4

 

×敵キャラが魅力的じゃない

本作はほぼ通しで全部同じ敵、真島を相手するという内容なんですが、彼もまた物語を薄くする優秀なスライサーでした。まずアラン機関的に千束がアウトで真島がセーフなのが良く分からないのは前述の通り。そして後付けで”バランス能力と圧倒的戦闘能力”と公式から謎のフォローが入る。才能とは アラン機関周りの設定に無理があったと自白しているようなものです。

 

動機もよくわかりません。日本でテロ、犯罪が目立たない理由であるDAの存在が隠されているからDAの存在を明らかにすることでバランスを取りたいらしいです。暗躍してるDAから自衛として市民に武器を配ります。そしてリーマンがリコリスを撃っちゃう。

まず国に情報機関があるのは普通の事です。街頭モニターに映った映像だけで混乱し感化され、しかも秘密裡にとはいえ”安全を守っている”と紹介された少女に発砲するでしょうか?

次に真島がたびたび言う”バランス”は彼の主観でしか測ってません。DAが存在するからテロリストとして立ちはだかるのがバランス?家に鍵がかけてあるから泥棒になるのがバランスのとり方ということですか?

このおかしい論理で互いに正義がある(これも主観なのでそのぶつかり合いに当然バランスなどない)という事を千束と互いに認めるシーンがあるんですが、二重に矛盾していることに気付いていないのでしょうか。絶対的な悪人などおらず、正義がぶつかり合ってるだけ、というモチーフは近年使い倒されてて要素だけつまんでも安っぽいんですよね。

彼は無差別テロを起こし殺人もしています。不殺を誓う千束にとっては本来「あんたにも正義が」とは絶対ならないでしょう。

 

真島は明らかにバットマンのジョーカーを下敷きにしているキャラですが、彼はジョーカーのように哲学や美学があるカッコイイ悪役じゃないです。うわべだけなぞった分余計に性質が悪いです。

 

×褒めた戦闘も実は

アニメーションとしては素晴らしいんですが重要な真島との戦闘でも疑問が出ます。まず聴力があれだけいいなら自分の発泡音だけでも相当耳を傷めるはず。不殺弾かつチョッキを着ているとは言え車のドア程度の鉄板を貫通する弾丸を、至近距離で何もつけてない腕や頭に撃たれて血も出さずピンピン動く謎のタフさ。拘束した後に逃げられないように工夫もしないですし、案の定逃げられます。*5物語の都合上ラストで戦ってもらわないと困りますもんね。

最終的に真島は貼ったPV15秒頃、左奥に映る塔展望部から落ちるんですが死なないのは流石におかしい。視聴者は嫌いだけど制作側のお気に入りやストーリーの都合で優遇されてうんざりってキャラ、たまにいますよね。彼もそうです。

 

×その他

制服が都市迷彩だという説明がありますが絶対に目立ちます。どこの学校だと話題になるでしょう。単にカワイイでしょ?ってだけ。

バディものとしても中途半端。ほぼ真島がらみの話だったので、喫茶店支部として色んな事件を二人で解決するくだりがあっても良かったかなと思います。もっと話数があったらできたのかも。

少年少女である理由がない。成人したら輸出?この点は搾取構造を批判したかったのか?という指摘をしている考察されている方がいて面白かった。*6残念ながら実際坂道の衣装担当した会社がデザインしている*7のでそんな内容にはできないでしょうね。単にカワイイでしょ?ってだけ。

都知事のパロディも触ったみたいなレベルの風刺ならない方がいい。内容がブレます。

ガンスリンガーガールとの比較は昔に原作ちょっと見しただけなので触れません。

 

まとめ

思いついた設定、やりたい場面みたいなものが先行しすぎたあまり、しわ寄せで生じた無理をうまくまとめるのに失敗してしまった感がどうしても拭えません。土台が揺らぐと、せっかくの丁寧な描写や主題の説得力がなくなってしまいます。

気合の入れ方や素材は良いのですが、惜しくも後半失速してなんとか胴体着陸という感じでしょうか。

 

 

60/100点

 

 

次回は往年の名作「装甲騎兵ボトムズ」の予定です。

ではまた、

※眠いので文章がおかしい点があったかもしれません(12/21 加筆修正しました)

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*1:Direct Attackの略らしい

*2:決して難しくない物語構造ですが「リコリス・リコイル 感想(or考察)」で検索上位にくる記事ではそれに触れているものは一つしか見つけられませんでした。表面的な伏線の考察や敵もまた正義をもっている、といった論点ばかりで残念です。

*3:表向きにいくつか出しておいてアラン機関の真の目的は世界に混乱をもたらすことだ、くらいふかす必要があるがそれはもはや別作品

*4:脚本の人そこまで考えてないと思うよ (きゃくほんのひとそこまでかんがえてないとおもうよ)とは【ピクシブ百科事典】

*5:負けたのにドヤ顔で戻ってくるし

*6:

リコリス・リコイル 感想 「設定」をまんま出すな、世界観と人物像を創ってくれ - 百合レビュー - とっぽいとっぽい。

*7:

kimika onai on Twitter: "制服のデザインのお仕事をさせていただいたTVアニメ『リコリス・リコイル』が放送になっています。だいぶ前にお仕事させていただいていたので、放送開始していたのに気付かず…追っかけで見たいと思います💪🏻✨ありがとうございました✨ https://t.co/rMS4Wf6HAL" / Twitter